拠点長挨拶
拠点長・超耐熱材料PL
吉見 享祐Kyosuke YOSHIMI
東北大学大学院 工学研究科 教授
優れた産業基盤に支えられた我が国のマテリアル分野は、我が国の強みであると考えられてきました。世界に冠たる量子線大型施設やスパコン環境の整備により実験的および計算科学的解析が一層発展し、対象環境下での材料損傷の本質解明に向けた取り組みが日夜進められています。しかしながら、産業界は国際競争力を維持するために学界との情報共有が難しくなり、新規材料開発に向けたシーズ活用への挑戦が減速しつつあるのではと心配の声が上がっています。一方学界は、長い歴史の中で培われた学理構築のための手続きに縛られ、昨今急速に発展を遂げるデジタル・トランスフォーメーション(DX)への取り組みが思うように進んでいません。このことは、決して我が国だけが抱えた問題ではなく、世界各国、とりわけ先進国で同様の内情を抱えています。
2030年に向けたエネルギーミックス、2050年に向けた脱炭素化目標の達成、自然環境の変化や災害に対してレジリエントで安心・安全な社会の構築など、限られた時間の中で我が国が抱える社会的諸問題を解決していくためには、我が国のマテリアル分野が、マテリアル先端リサーチインフラやデータ中核拠点と強く連携しながら、マテリアルDXプラットフォーム構想を堅固に推進していく必要があると考えます。そこで本拠点は、革新的な極限機能を有する構造用マテリアルの創出に向けて、応力−ひずみ曲線に秘められた材料の力学特性の本質に着目し、様々な環境下での破壊の抑制と制御のためのデータ駆動型材料設計や、機械学習とも連動した寿命予測に対する取り組みを推進してまいります。そして、挑戦的で斬新なアイディアをデータサイエンスの手法に取り込むことでより迅速に、より効率的に成果へと繋げる構造材料分野のデジタル新時代を切り拓いていくことを目標としています。
データ創出・活用によるデータ駆動型材料開発の概念は、人類の科学技術の進歩とも密接に関わりながら、数年単位で大きく進化発展していくことが容易に想像されます。本拠点ではこういった時代の急速な変化に対応できるマテリアル×デジタル人材の育成にも積極的に取り組み、その活動を日本全国に発信していきたいと考えています。加えて、海外の動向にも注視し、国際交流や国際会議開催などによる情報収集・発信にも取り組んでまいります。そして本拠点が、若手研究者の未来に向けた創造の場となるよう、環境を整えてまいります。本拠点の目指すデータ駆動型構造材料研究と開発に多くの皆様からご支援をいただくことができますよう、ご理解のほど何卒よろしくお願い申し上げます。